著者 洞貝 渉
  • なし
# 1

ねむりヒツジのねむ子さん

 ねむりヒツジのねむ子さんは、とても仕事熱心。
 今日も素敵なひなたを探して、あちらのひなたからこちらのひなたへ。
 でも、ねむ子さんの気に入るひなたはなかなか見つかりません。
「ここは、いいひなたね。でも、ちょっと風が当たるわ」
「鳥のさえずりが聞こえる。素敵だわ! でも残念。木陰になってるのね」
 どんなに悩んでいても、疲れすぎていても、ぐっすりすっきりと眠れる素敵なひなたでなくては! というこだわりが、ねむ子さんにはあります。
 なぜなら、そんなひなたがねむ子のお仕事に、どうしても必要だからです。

「うーん、いいひなただわ! ここに決めた」
 そこは一日中お日様が当たり、ぽかぽか陽気に誘われてきれいなお花が咲いたり、優雅に飛ぶチョウチョウがやって来たりして、見るからに特上なひなたでした。
 ねむりヒツジのねむ子さんは、早速仕事の準備にとりかかります。
 お気に入りの敷物に、お気に入りの枕、それからお気に入りの肌かけを用意して。
「おやすみなさい!」
 ねむ子さんはお昼寝をはじめました。
 もちろん、これはお仕事の一つです。特上のひなたで、特上のお昼寝をすることで、特上の『ねむり』を充電しているのです。
 お日様の当たる、ぽかぽかなひなたで、ねむ子さんは存分にお昼寝をしました。
 そして、日が傾き、夜がやって来ます。

 夜になると、人々はねむります。
 でも、ねむれない夜を過ごす人も少なくありません。
 がんばり過ぎた人、誰にも相談できずに不安を抱えている人、やりたいことがたくさんある人……。
 そんな時、ねむりヒツジのねむ子さんの出番です。
「今日はこのお家にしましょうか」
 夜も深まったのにも関わらず、こうこうと明かりのついた部屋を見つけ、ねむ子さんは言いました。
 その部屋の人は、今日、とても落ち込むことがあって、全くねむることが出来ませんでした。ねむらなくては、と思えば思うほど目はさえてゆき、頭の中をぐるぐると落ち込むことが回想されるのです。
「こんばんは」
 ねむ子さんがドアを叩くと、その人はとても驚きましたが(なにせヒツジが口をきいたのですから)、すぐにねむ子さんを部屋にあげてくれました。
「わたくし、ねむりヒツジのねむ子と申します。あなたに素敵なねむりをおすそ分けに来ました」
 そう言うと、ねむ子さんは早速お気に入りの枕を取り出して、その人のお布団に横になります。
「さあさ、どうぞご一緒に!」
 ねむ子さんがお誘いすると、その人はおっかなびっくり、ねむ子さんと一緒にお布団で横になりました。
「ねんねん、ねんねん……」
 ねむ子さんの優しい子守歌を聞いているうちに、その人はだんだんと心の芯がほぐれていくような気がします。次いで、身体がぽかぽかとして、どこからかひなたのいい匂いまでしてくるではありませんか。
 ゆるりと、落ち込んだ気持ちがほぐれて、溶けていきます。
 
「また、ねむれなくなったら、いつでもお邪魔しますね。素敵な『ねむり』と一緒に」
 ねむ子さんは、その人がぐっすりとねむりについたのを確認して、にっこりと笑いました。
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