- なし
# 19
姉妹・3
「ごきげんよう。お、お姉さま、お疲れーん。お久しぶりのハグ。――相変わらずちっちゃ!」
「ほっときなさいな……」
街中でもよく見かける、いたって普通の外見を装った馬車に乗って、フランシスは現れた。
見る者を圧倒する高圧的な佇まいで座についていたフランシスだったが、門の内で待っていたリプカの姿を認めると、微笑みと――僅かばかりの疲労の色を浮かべて、表情を和らげた。
(やっぱり、相当な無理をしているのね……)
いくらこの子といえど、無尽蔵ではない。
世間には意外に思われるかもしれないが――これまで幾度と見てきた、フランシス・エルゴールの、疲労の色。――しかしさすがに、今回ほど色濃い疲弊は始めて見る。
過労への心配、そこから見える世界情勢の不安、フランシスのこれから――。
――そんな心配を胸の奥底に隠しながら、リプカはただフランシスにモフられ続けた。
「ハス。ハスハス。――はー、お姉さま成分補充」
「私から何らかの成分が漂ってるみたいな見出しはやめて……」
そう言いながらも、リプカは引っ付くフランシスの背に手を回し、軽く添えた手で優しく抱き留めていた。
――ふと、フランシスの背後、馬車の中から、見知らぬ二人が姿を見せた。
一人は長身の男性。
一人は細身の女性。
二人は地に降りるとすぐさま、リプカに恭しく礼をした。――リプカもおずおずと、首だけの中途半端な礼を返した。
(――護衛)
腰を折る二人をじっと見つめる。
(男性はかなり腕が立つ。足周りの肉が特に、戦う形に発達している。女性は、緊急時の臨機応変に長けているタイプに見える。そして、暗器の扱いに長けた者の体つきをしている――)
「スターップ、お姉さま」
自然と目の前に立つ者の分析に思考を割いたリプカへ、フランシスは不機嫌な声を投げかけた。
「私が目の前にいるのに、他のことに思考を割かないで」
「あ、ええ、ごめんなさ――いや乱暴者の考えじゃないの、それ」
「なに? なーにー? ご不満がー?」
「はいはい、今は目の前の貴方に集中するわね。――フランシス」
「なに?」
「何か、隠し事なんかしてない?」
「――してないわ。何もないわよ」
「そう」
リプカは笑顔になった。
「なら、よかった」
その笑顔を見て、フランシスもまた、屈託のない笑顔を浮かべる。
「んじゃまあちょっと、まさに逆不肖であるところの、あの親共にも挨拶を向けてこようかしらね」
「お父様は、今はお眠りになってるわ」
「お、相変わらずやってるみたいねぇ、お姉さまは」
「なんでお眠りになっているって言っただけなのに、そうなるの……。……まあ、そうなのですが」
「ダッハッハ。そうなんじゃん」
「と、ともかく――フランシス、あなたには、聞きたいことが沢山あります」
「ああ、うん、それね」
フランシスは目を瞑り微笑むと、静かに、頷いた。
「ええ、んじゃ親への挨拶が終わったら、その話をしましょう。――といっても、これは私の企みとは無縁の話だから、私からは本当に状況整理みたいな話しかできないけれど」
「そ、そうなの?」
「ええ。今回の騒動は全て」
リプカを見つめて、フランシスは微笑みそのままに、言った。
「お姉さまの、物語よ」
――私の……。
今までの人生において、そのような脚光に立ったことのないリプカは、そう小さく呟き、突然舞台に放り出され無遠慮なスポットライトを浴びせられるという人生においてままあるはずの感覚に、慣れないどぎまぎと、道に迷ったときのような戸惑いを浮かべていた。
「ほっときなさいな……」
街中でもよく見かける、いたって普通の外見を装った馬車に乗って、フランシスは現れた。
見る者を圧倒する高圧的な佇まいで座についていたフランシスだったが、門の内で待っていたリプカの姿を認めると、微笑みと――僅かばかりの疲労の色を浮かべて、表情を和らげた。
(やっぱり、相当な無理をしているのね……)
いくらこの子といえど、無尽蔵ではない。
世間には意外に思われるかもしれないが――これまで幾度と見てきた、フランシス・エルゴールの、疲労の色。――しかしさすがに、今回ほど色濃い疲弊は始めて見る。
過労への心配、そこから見える世界情勢の不安、フランシスのこれから――。
――そんな心配を胸の奥底に隠しながら、リプカはただフランシスにモフられ続けた。
「ハス。ハスハス。――はー、お姉さま成分補充」
「私から何らかの成分が漂ってるみたいな見出しはやめて……」
そう言いながらも、リプカは引っ付くフランシスの背に手を回し、軽く添えた手で優しく抱き留めていた。
――ふと、フランシスの背後、馬車の中から、見知らぬ二人が姿を見せた。
一人は長身の男性。
一人は細身の女性。
二人は地に降りるとすぐさま、リプカに恭しく礼をした。――リプカもおずおずと、首だけの中途半端な礼を返した。
(――護衛)
腰を折る二人をじっと見つめる。
(男性はかなり腕が立つ。足周りの肉が特に、戦う形に発達している。女性は、緊急時の臨機応変に長けているタイプに見える。そして、暗器の扱いに長けた者の体つきをしている――)
「スターップ、お姉さま」
自然と目の前に立つ者の分析に思考を割いたリプカへ、フランシスは不機嫌な声を投げかけた。
「私が目の前にいるのに、他のことに思考を割かないで」
「あ、ええ、ごめんなさ――いや乱暴者の考えじゃないの、それ」
「なに? なーにー? ご不満がー?」
「はいはい、今は目の前の貴方に集中するわね。――フランシス」
「なに?」
「何か、隠し事なんかしてない?」
「――してないわ。何もないわよ」
「そう」
リプカは笑顔になった。
「なら、よかった」
その笑顔を見て、フランシスもまた、屈託のない笑顔を浮かべる。
「んじゃまあちょっと、まさに逆不肖であるところの、あの親共にも挨拶を向けてこようかしらね」
「お父様は、今はお眠りになってるわ」
「お、相変わらずやってるみたいねぇ、お姉さまは」
「なんでお眠りになっているって言っただけなのに、そうなるの……。……まあ、そうなのですが」
「ダッハッハ。そうなんじゃん」
「と、ともかく――フランシス、あなたには、聞きたいことが沢山あります」
「ああ、うん、それね」
フランシスは目を瞑り微笑むと、静かに、頷いた。
「ええ、んじゃ親への挨拶が終わったら、その話をしましょう。――といっても、これは私の企みとは無縁の話だから、私からは本当に状況整理みたいな話しかできないけれど」
「そ、そうなの?」
「ええ。今回の騒動は全て」
リプカを見つめて、フランシスは微笑みそのままに、言った。
「お姉さまの、物語よ」
――私の……。
今までの人生において、そのような脚光に立ったことのないリプカは、そう小さく呟き、突然舞台に放り出され無遠慮なスポットライトを浴びせられるという人生においてままあるはずの感覚に、慣れないどぎまぎと、道に迷ったときのような戸惑いを浮かべていた。
コメントはまだありません
コメントはまだありません