著者 夙多史
  • なし
# 6

開幕!食菱学園文化祭

 あたしの名前は飯草いいぐさヨツバ。私立食菱学園二年一組が誇る天才美少女フェスティバルリポーターだよ!
 今日は我が食菱学園の文化祭。美味しい食べ物の屋台からメイド喫茶、お化け屋敷、バンドや演劇とかいろいろあるからリポーター魂に火がつくよね! お化け屋敷以外は全部回るつもりだよ! えっ? あ、違うよ怖いとかじゃないよ! このヨツバちゃんを怖がらせたら大したもんだよ!
 
 そんな感じで、助手の冷瀧さめたつコミヤくんと一緒に文化祭を回ることになったの。コミヤくんってばなんかめちゃくちゃ嫌そうな顔してたけど関係ありません。強制連行しちゃった。てへっ♪
 さっそく文化祭屋台のグルメをリポートするよ! 肉! お肉が食べたい!

 ――って、張り切ってたんだけど。 
 
「どこ行ったのコミヤくぅううううん!?」

 迷子になっちゃったの。コミヤくんが。
 まったくしょうがないよね。自分の学校で迷子になるなんてコミヤくんのおっちょこちょいには困ったものだよ。

「トーシンどこ行ったでゴザリュかぁあああああああッ!?」

 あれ? なんかあたしと同じように迷子を捜してる子がいるね。
 綺麗な金髪をかんざしでポニーテールにした外国人の女の子。なぜか腰に日本刀を挿してるあの子は……知ってる子だ。というか同じクラスのシンシア・エッジワースちゃんだね。
 
「シンシアちゃん、どうしたの?」
「オゥ! ヨツバ殿、トーシンを見なかったでゴザリュか?」
「トウシンくん? 見なかったよ?」

 剣崎トウシンくん。あたしやコミヤくんやシンシアちゃんと同じクラスで、将棋部の部長。実家も将棋の道場をしてるらしいけど、あたし将棋とかわかんないから行ったことないなぁ。
 コミヤくんとトウシンくん、あと隣のクラスのユウゴくんって人が中学から仲がよくて、いつも男子三人でどっか遊びに行ってたっけ。あたしも混ぜてほしかったのに、いっつも除け者にするんだよ? 酷いよね!

 そうそう、トウシンくんとシンシアちゃんはすごく仲がいいの。なにがあったのかは深く聞いてないんだけどね。シンシアちゃんが言うには、立派なオサムラーイになるために将棋のことをトウシンくんから習ってるんだって。なんで剣道部じゃないんだろうね? 戦略を覚えて将軍になりたいのかな?

「あたしもコミヤくんが迷子になっちゃって捜してるんだ。自分の学校なのに情けないよね!」
「まったくでゴザリュ。留学したばかりのミーでも迷子にならないのに、トーシンはホーコーオンチでゴザリュな!」

 ゴン!
 ガン!

「あ痛っ!? ちょっと今ブーメランぶつけたの誰!?」
「お祭りはアンゼンメンに気をつけるでゴザリュ!?」

 あそこにブーメラン投げの屋台があるね。あとで文句言ってやる。それより今は迷子を捜さないと!

「あ、そだシンシアちゃん! どうせだし、文化祭を回りながら一緒に捜さそうよ!」
「それはメーアンでゴザリュな!」

 こんな楽しいイベントを迷子探しなんかで終わらせるのは勿体ないからね! 助手がいなくてもしっかりリポートするよ!

「シンシアちゃん、お金はどのくらい持ってる?」
「フッフッフ、でゴザリュ。今日のためにパパからグンシキンを貰ったでゴザリュよ」

 そう怪しく笑ってシンシアちゃんはお財布からお札を一枚取り出した。おお、諭吉さんだ! それだけあったら屋台も全部制覇できそう!

「じゃあ大丈夫だね! 本当はコミヤくんにたかるつもりだったんだけど、今日はパーッと使っちゃおう! お肉食べようお肉!」
「レッツゴーでゴザリュ!」

 あたしとシンシアちゃんは拳を天に突きつけ、タタタタッと美味しそうなところに片っ端から突撃する。お腹空いてるからね! 腹が減ってはバトルもできないよ!

「わたあめでゴザリュ!」
「あまあまふわふわで美味しいよね!」
「イカ焼きでゴザリュ!」
「あつあつでこのプニプニした歯応えが堪んないよね!」
「お面でゴザリュ!」
「シンシアちゃんひょっとこは食べ物じゃないよ!」
「イカ焼きでゴザリュ!」
「あれ? 二本目? 美味しいからいいけど」
「焼き鳥でゴザリュ!」
「お肉キタァー!! 塩もいいけど断然タレ派だよね!」
「チョコバナナでゴザリュ」
「あえて上にかかってるチョコだけを舐めとるのがいいよね! あれ? なんか男子が注目してる?」
「イカ焼きでゴザリュ!」
「気に入ったんだね、シンシアちゃん」
「イカ焼きでゴザリュゲソ!」
「ゴザリュゲソ!?」

 そんなこんなで、あたしたちは食べ歩きしながらいろんなところを回ったよ。
 文化祭楽しすぎる。ていうかなにか別の目的もあったような気がするけど、まあいいか!

「うっぷ……食べすぎたぁ、もうお腹いっぱい」

 あれからさらに焼きそばとかタコ焼きとか食べたからね。もう動けない。あとしばらくイカ焼きは見たくないよ……。

「次は2-2のメイド喫茶に行くでゴザリュ! オムライスがすごいらしいでゴザリュ!」
「ちょっと待ってシンシアちゃん、今動けなくて……ていうかあんなに食べてるのになんでそんなに元気なの!? まだ食べるの!?」

 こんなに食べたら太っちゃうよ。でもシンシアちゃんはスタイルいいよね。ハッ! もしかして死ぬほど食べることが秘訣!?

「フフフ、いいよ。そういうことならとことん付き合うよシンシアちゃん!」
「ホワッツ? なんだか燃えてきたでゴザリュな、ヨツバ殿!」

 シンシアちゃんはあたしの手を取って引っ張っていく。これならはぐれたりしないね。安心だね。
 と思って身を委ねていたんだけど――

「――アウチッ!?」
「あぁ? どこ見て歩いてんだ姉ちゃん?」

 人混みを掻き分けて進んでいたシンシアちゃんが、なんか怖そうな男の人にぶつかっちゃったよ!?
 他の学校の生徒みたいだけど、あの学ランはまさか……ッ!?

「あ、あれは須照御路すてごろ高校の制服!? この辺屈指の不良校だよ!? 逃げてシンシアちゃん!?」
「フリョーさんでゴザリュか!?」
「文句あんのかあぁ?」

 男の人は元々怖い顔をさらに恐ろしく歪めてあたしたちを睨んできた。ふ、不良って言ったから怒っちゃったのかな?

「どうしやした、兄貴?」
「その姉ちゃんたちがなにかしたんですかい?」

 あわわわわっ!? た、大変だよ不良が二人も増えちゃったよ!?
 三人ともガタイがよくてあたしたちなんて簡単に挽肉にされちゃいそうだよ!?

「このパツキンの姉ちゃんがぶつかってきてよぉ。痛ってぇなぁ、こりゃ骨が折れたかもしんねえなぁ」
「あれ? 実は女の子にぶつかっただけで骨が折れるくらい弱いの?」
「雑魚でゴザリュか! ならばミーのカタナのサビにしてくれるでゴザリュ!」
「なわけねえだろ!? ふざけてんじゃねえぞゴラァ!!」

 怒鳴られた!? コワイ!?

「ほう、よく見りゃどっちも可愛いじゃねえか。ぶつかった詫びに俺たちと文化祭を楽しもうぜげへへ」

 不良二人があたしとシンシアちゃんの腕を掴んだ。

「ひっ!?」
「は、放すでゴザリュ!?」

 あたしは怖くて動けない。シンシアちゃんは暴れてるけど、力で勝てなくて抵抗にもなってないよ。

 目を瞑る。
 もうダメだ。校舎裏とかに連れて行かれてボッコボコにされるんだきっと。

 嫌だ。

 助けて。

「助けてコミヤくん!!」

 ――ボカッ!!
 ――ドガッ!!

 鈍い音が二つ聞こえて目を開けると、あたしとシンシアちゃんを掴んでいた不良が吹っ飛んで地面に倒れていた。
 そして、あたしたちを庇うように立つ二人は――

「コミヤくん!?」
「トーシンも!?」

 コミヤくんとトウシンくんだった。そうだ、あたしたちは迷子になったこの二人を捜してたんだった。文化祭が楽しすぎてすっかり忘れてたよ!

「俺らのツレになんか用か?」
「なんだてめぇ?」

 コミヤくんが不良のリーダーを睨む。不良も負けじと睨み返すけど、起き上がった子分二人がコミヤくんとトウシンくんを見て顔を真っ青にしたよ。

「こ、こいつは、〝食菱のブリザード・ドラゴン〟冷瀧古味也さめたつこみや!?」
「〝斬鬼〟の剣崎刀心けんざきとうしんもいるぞ!?」
「なにィ!?」
「〝小銭狩り〟の鐘梨優吾かねなしゆうごはいねえみたいだけどヤバいっすよ!?」
「逃げましょう兄貴!?」

 なんかあたしの知らない言葉が飛び交った気がする。

「……チッ、よくもまあ俺らの古傷を。殺すぞお前ら」
「その恥かしい名で呼ぶな!? そういうのは中学で卒業してんだよ!?」

 今まで見たことないくらいブチ切れたっぽいコミヤくんとトウシンくんがメンチを切った。

「ひぃいいいいいいいいいいいいいいいいい!?」
「あ、あんたらのスケには手ぇ出さねぇよ!?」
「これが愛の力なのか!? 半端ねえっす!?」

 不良たちは背筋をピンと伸ばしてくるっと回れ右。

「「「ご迷惑おかけしましたぁああああああああああああああああッ!?」」」

 一目散に、逃げちゃったよ。

「コミヤくん!」

 あたしは思わずコミヤくんの背中に抱きついてしまった。しょうがないじゃん。だって怖かったんだもん。

「お前、勝手にいなくなったと思ったらなにしてんだよ?」
「コミヤくんが迷子になってたんでしょ!」
「は?」

 すごい冷たい目で見られた。わーい、いつものコミヤくんだ。

「ていうか、コミヤくん昔なにしてたの?」
「なにもしてない」
「あたし幼馴染だけどなんにも知らないよ?」
「なにもしてない」

 ぷいっとそっぽを向いたままコミヤくんは話そうとしない。むむむ、これは幼馴染のヨツバちゃんにも言えない秘密ってやつだね。コミヤくんが言いたくないなら仕方ない。今度ユウゴくんにでも聞いちゃおうかな。

「トーシンもかっこよかったでゴザリュ! ベストタイミング! えっと、アイノチカラでゴザリュ!」
「違うから!?」
「ところで『スケ』ってどういう意味でゴザリュ?」
「あ、それあたしも知りたい!」
「「知らなくていい!?」」

 その後、事情を聞きにきた生徒会長に経緯を話してから、あたしたちは改めて四人で文化祭を巡ることになったよ。
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