著者 霧江サネヒサ
  • なし
# 4

ポイゾナス・ランチタイム

 ファミレスに、異様な男たちがいる。
 ひとりは、イギリスの高級ブランドのスーツと革靴。そして、たぶん香水も。それだけでも場違いなのに、男の両目は、包帯とガーゼで完全に隠れている。
 その男と向かい合っている男は、フィクションのチャイニーズマフィアみたいな格好をしていた。そして、昼間からワインを飲んでいる。
 私は、このふたりが兄弟なんだろうと推測した。何故なら、髪色や髪型や背格好、そして、笑った時に見えるギザギザの歯が同じだから。
 包帯男は、チャイナ男に、「きょーちゃん」と呼ばれていて。チャイナ男は、包帯男から「ケイゾウくん」と呼ばれている。
 ケイゾウくんがワインをかぱかぱ飲んでいる一方で、きょーちゃんは、行儀よくイカスミパスタを食べていた。

「きょーちゃんも飲もうよ!」
「私はいりません。慧三君が全部飲んでください」
「てか、きょーちゃんなんでファミレス来たの? 金いっぱいあるでしょ?」
「ここが好きだからですよ」
「安上がりな舌だねー」

 きょーちゃんは、生ハムとモッツァレラチーズを食べる。
 私は、自分のテーブルのソーセージピザを食べながら、ずっとふたりを観察していた。

「慧三君は、金を稼ぎましたか?」
「昨日、パチンコ勝ったよ」
「そうですか」

 どうも、きょーちゃんは“兄”っぽい
 でも、おそらくまともな職についてないギャンブラーな弟に、説教をしたりはしない。
 そして、一時間後。ふたりは店を出た。
 私は、こっそりとついて行く。
 長身の男たちに置いてかれないように。でも、バレないように気を付けた。
 そして、曲がり角に差しかかって、急いで私も曲がった時。
「オネーサン、オレらになんか用?」と、チャイナ男に言われた。

「あの、えと、違います…………」
「慧三君、やはり素人ですよ。行きましょう」
「オレ、オネーサンと遊ぶ~」
「そうですか。では、私は帰ります」
「じゃあね、きょーちゃーん」

 嫌な予感がする。頭の中でサイレンが鳴っている。
 逃げようとしたら、チャイナ男に腕を掴まれ、口を塞がれた。

「逃げないで。声出さないで」

 そう嫌に優しく囁くと、私の喉をナイフで切り裂く。

「かひゅっ…………」
「もう助け呼べないねぇ」

 男は、歯を見せて笑った。

「さよなら、オネーサン」

 胸を抉るナイフ。激痛と絶望の中、私は意識を失う。
 その少し前に頭の中に過ったことは、「好奇心は猫を殺す」というイギリスのことわざだった。
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