著者 霧江サネヒサ
  • なし
# 3

スイート・トキシック

「大好きだよ、慧くん」と、甘ったるい声で女が言った。

「オレも大好きだよ~。お仕事がんばってね!」
「うん。いってきます」
「いってらっしゃい」

 愛坂慧三は、笑顔で女を見送る。

「さーて、どうすっかなぁ」

 煙草、ハイライトを吸いながら、スマホを触った。
 他の女からきたメッセージに返信し、煙草を灰皿に押し付ける。
 伸びをしてから、スウェットから、チャイナ服に着替え、アパートの外へ出た。
 そして、パチンコ屋へ向かう。数時間後、女からもらった金を見事に溶かし、慧三はイライラしながら店を出た。
 コンビニ前に設置された灰皿の側で煙草を吸い、「ふー」と煙を吐く。
 慧三は、密かにコンビニから出てくる客を観察している。
 しばらくして、独身らしいくたびれたスーツの男が出てきた。その男を尾行する。
 そうして、人のいない小道で、慧三は男に声をかけた。

「オニーサン、なんか落としたよ」
「はい?」
「ほらほら、これ」

 慧三は、立ち止まって振り返った男に近付き、ナイフで心臓を一突きする。

「ぐっ……あ…………」
「ごめーん。今から落とすんだった」

 その命を。

「さよなら、オニーサン」

 返り血を浴びないようにナイフを抜き、男の財布から金を盗んで、慧三は女の家に帰った。
 少ししてから、カノジョが帰宅する。

「おかえり!」
「ただいま、慧くん」

 玄関まで行き、女を抱き締める慧三。

「すぐ、ご飯にするね」
「うん、ありがとう!」

 男は、ニコニコしながら、晩ごはんを待つ。
 カノジョが用意したのは、カルボナーラだった。

「オレ、これ好き~。いただきまーす」

 食後、ふたりでソファーに腰かけて、キスを交わす。

「慧くん、好き…………」
「ありがと。俺もだよ」

 そのまま、彼らはセックスをした。
 その後、ふたりで風呂に入る。

「慧くん、ずっと側にいてね」
「もちろん!」

 女を後ろから抱き締めて浴槽に浸かっている慧三は、カノジョが望む返事をした。
 風呂から出てから、ふたりで晩酌をする。アルコール度数9%の缶チューハイを飲んだ。
 夜更け。ふたりでセミダブルベッドで眠りにつく。
 翌朝。先に起きたカノジョが作った朝食を食べ、出勤するのを見送り、昨夜得た金を持って、競馬場へ向かう慧三。
 少し金を増やして、機嫌よく治安の悪い街へ歩き出す。
 そして、ヤクの売人からMDMAを買って帰った。
 部屋の中でヤクをキメて、幸せな夢を見る。
 愛坂慧三は、どこまでも自堕落に生きていた。
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