- なし
# 40
その37 レオスの優雅な一日
「ふう……」
「お気に召しましたでしょうか?」
「ええ、とてもおいしい朝食でした。この食後の紅茶がまた格別ですね」
「ありがとうございます。この宿自慢のお茶でございます。それではごゆっくりどうぞ」
「ありがとうございます」
と、領主様のところのようなシチュエーションをした朝食風景である。
なぜか?
僕は昨日セミスイートに宿泊したので部屋での朝食に従業員さんがすべて用意をしてくれる至れり尽くせりなサービスを受けたからだ。
このところ野営が多かったし、アレク達の屋敷は緊迫した状況だったりとゆっくり休めていなかったから思い切って贅沢をしてみたというわけ。
「さて、国境を越えたからお宝を売ることもできるけど、商品と手持ちのお金を計算しておこうかな」
手持ちは……アレンにふんだくられて残った金貨十枚に、領主様からもらった追加の金貨十枚。それと銀貨三枚ってところか。
ポップコーンで稼いだお金は地図やらの雑費と、このセミスイートに泊まる資金として消えていったのでこんなものだと思う。
「魔法の帽子とか短剣は露店で出してみようかな?」
値段を決めるのも自分次第なので、いくらなら売れるか? といったことを考えるのはとても楽しい。僕が『僕』だった最初の前世の時から商売はやりたかったんだよね。
「そうと決まれば早速市場へ行ってみよう」
「お出かけですか?」
「はい。ちょっと市場まで行ってきます」
入口へ行くと先ほど僕の朝食を届けてくれた女性が窓を窓を拭きながら声をかけてくれたので、僕は歩きながら答えてそのまま道へと出ていく。
「今日もいい天気だね……そうだ、今日は水曜だけどセブン・デイズは……」
セブン・デイズの宝石を見ると今日は青色に光っていた。やはり曜日によって属性が変わる剣みたいだ。もう少し特性が分かれば説明文を付けて売りに出すこともできると思う。それにしてもそう考えると城を出てからもう一周しちゃったのか……
「……実家で売った方がいいかな?」
あまり高額に売れてしまうと父さんが働かなくなるので道中で売って貯金に回す方がいいのかもしれないけど……そんなことを考えながら足を進めると、やがて大通りに出た。
「国境付近だけあって結構大きい町だよね。商人も多いし、ここで少し路銀を増やしておこう。さて、市場はどっちかな」
国境を越えたら急ぐ必要もない。
なのでもう少し町並みを見ながら市場まで歩いていくことにした。ここはスヴェン王国のイスナンという町だそうだ。国境付近だけあって冒険者や商人の姿を多く見かける気がする。
大通りをくまなく眺めて、武器防具に雑貨屋。食事をする場所にギルドと、主要な建物はだいたい網羅できた。
「……ま、ギルドには行かないけど」
依頼をするつもりはないし、だいたい厄介ごとに巻き込まれるのがギルドなので、近づかないに越したことは無い。そして歩いている人に訪ねることでようやく市場に辿り着いた。
「おおー、露店が並んでる並んでる! よし、さっそく僕もお店を出させてもらおうかな」
僕は空いているスペースを見つけてるため歩く。こういう場所は空いていれば好きに商店を開いても問題ないからね。フリーマーケットみたいな感じである。
「端っこかあ。ま、無いよりいいよね」
わくわくしながら僕は無限収納カバンからポップコーン屋で使った長机を引っ張り出してその上に布をかける。これだけでも立派なカウンターの出来上がりだ!
「お、おい坊主、それどこから出したんだ?」
すると隣で座り込んでいるのひげもじゃのおじさんが目を見開いて驚いていた。
「え? カバンからですけど……」
「……マジックバッグってやつか。いいもん持ってるな、大事にしなよ」
「え、あ、はい。ありがとうございます」
なぜかカバンが褒められたので、ついお礼を言ってしまう。別にお礼は必要なかったよね……気を取り直して、僕は商品をテーブルに並べ始める。
ミスリルの短剣:金貨二枚
魔法の帽子:銀貨八枚
サタナイトのブローチ:金貨一枚
ダイヤモンドの腕輪:金貨二十枚
「ふう、とりあえずこんなものかな?」
他に何かないかカバンをあさっていると、例のワイングラスか優勝カップのようなものが出てきた。
「これかあ。ちょっとアレだけど……」
アンティークカップ:金貨二十枚
「ちょっと強気すぎるかな……? まあ賑やかしで置いておくのもいいよね。他のは売れゆきをみて出そうっと」
もちろん臭いアレンの鎧など出せるはずもないけど。それはそれとして商売の始まりだ!
「見て行ってくださいー! いい品ありますよー」
声を上げて道行く人に身振り手振りで呼び込みを行う。
しかし――
「うーん、立ち止まってくれるけど冷やかしばっかりだなあ」
数人の冒険者がチラ見したり手に取ってくれたものの、購入までには至らなかった。すると、隣にいるひげもじゃのおじさんが声をかけてきた。
「坊主は熱心だが、商品が良くないかもしれんなあ。周りを見てみなよ、生地とか酒が多いだろう? 冒険者は確かにいるが統一性もないから目を引きにくいんじゃないかなあ」
「おお……確かに……」
露店を見ると確かに専用っぽい感じで置いている気がする。
「なるほど……勉強になります」
「坊主はまだ若いから大丈夫だって。気落ちしないようになあ」
「はい! 今日はとりあえずこのままこれで行きますよ」
「はっは、それもまた良しだなあ」
おじさんと笑いあってまた商売に戻る。……人間もこういう人が多いといいのだけどな。
さて、そんな調子でいつの間にかそろそろお昼に差し掛かろうとしていた。片づけてお昼に行くのもいいけど、離れたら場所を取られるかもしれない……そう思っていた矢先のことだった。
「そこのあなた」
「?」
「あなたよ、若い商人さん」
顔をあげると、白いワンピースを着た貴族風な女の子が立ってほほ笑んでいた。青いショートカットの髪をして、少しつり目がちで髪と同じ青い瞳をしている。将来美人になるであろう顔立ちだ。
「僕に何か用かな、お嬢ちゃん」
「おじょ……!?」
目を見開いて何かを言いかけたその時、少し後ろで待っていた女の子が口を開く。
「げひゃひゃひゃ! お嬢ちゃんですってよお嬢様! やっぱりその貧相な体じゃ年相応には見られませんかね! げひゃひゃひゃ!」
と、下品な笑い声を出しているのはピンクの髪をツインテールにして、ぱっちりした目が可愛い子である。ホットパンツにTシャツ、その上に黒いジャケットを羽織って大人びた感じを出そうとしているけど、僕がお嬢ちゃんと言った子とほとんど変わらないちんちくりんな体である。
「だからあんたも似たような体でしょうが!」
「ふぎゃ!?」
ボディブローを受けてヒキガエルが鳴いたような声を出してうずくまるピンク髪。青い髪の子が再び僕に向き直り口を開く。
「お、お嬢ちゃんとは聞き捨てならないわね。これでも私は……あ、ああ!?」
「今度は何!?」
「こ、これは聖杯!? どうしてあなたがこれを!」
「え? それ何なのか知ってるの?」
「えっへっへ、カモがネギしょってましたねお嬢様」
僕が青い髪の子に訪ねると、お早い復活を遂げたピンク髪がそんなことを言う。
「それってどういう――」
「フフフ、これも運命かしら……そう私は――」
「あー! いました! ついに見つけました!」
女の子がバッと手を上げたところで今度は遠くから女の子の声が聞こえてくる。
あれは……!?
「やっと会えましたねレオスく――」
「よかったぁぁぁぁぁ! いたぁぁぁぁぁ! あたしもう疲れたぁぁぁぁぁ!」
ドドドドドと砂ぼこりを立てて、拳聖様が僕に柔らかいものを押し当てて抱き着いてきた!?
な、何でエリィとルビアがこんなところに居るんだ!?
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