著者 よつば 綴
  • なし
# 1

エデン


庭にある、大きな林檎の樹。
ひとつだけ実ったリンゴを食べた。

シャク····
ほんのりと甘くて、少しだけエグみがある。
美味しいような、美味しくないような。

首を傾げ、もう一口。
その瞬間──


ぶわわっと、色鮮やかな世界が脳裏を巡る。
見た事のない世界、聞いた事のない色、知らない物語。
僕の頭はオカシくなったのかな。

僕は、色の中をビュンと駆け巡る
僕は、形から形へぴょんと飛び移る
僕の身体を、文字がザワァッとすり抜けていく
もっと、もっともっと、心を踊らせる何かを感じたい


──得体の知れない世界を“もっと”と求めた時、僕の手にあったリンゴがぽとりと落ちてった。
無意識に、食べ進めていたらしい。

歪にヘコんだ底から、種がポロリ。
僕はそれを植えて、丁寧に水を与えて、不思議なリンゴが実るのを待つ。

ほらほら、立派な木になぁれ
僕の手なんて届かないほどに
さぁさぁ、真っ赤なリンゴにおなり
また僕に、美しい世界を見せておくれ

僕の声に応えるように、ぴょこっと芽が出た。
ありがとう、そう心で呟いた。
この子が寂しくないように、たくさんたくさんお話をして、大切に愛でて育てるよ。

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