著者 一理
  • なし
# 1

リアルフィクション・Xへようこそ!!!!・1-1

★☆さあ、リアルフィクションゲームを始めましょう!!☆★

 リアルフィクション・Xへようこそ!
 リアルフィクション・Xは、今あなたがいる場所、夢を媒体としてプレイできる、ソーシャルゲームです。
 ここでは、まるでフィクション世界にダイブしたような、最上級ハイエンドリアルな【完全三次元仮想体験】が楽しめます。
 以下の項目をよくご確認のうえ、希望者は【はい】を選択してください。

 *注意事項
・リアルフィクション・Xには残酷描写が含まれます。
・リアルフィクション・Xは状況により、心身に重大な負荷がかかる場合シチュエーションが予測されます。
・参加表明はそのことで起こり得る、如何なる危険に了承を示したものと判断されます。
・リアルフィクション・Xは、現実世界では望めない、退屈無縁の夢のようなスペシャルファンタジーな体験をお約束いたします!


 リアルフィクション・Xに参加しますか?


 【はい】
 【いいえ】



▽【はい】



 ――――参加登録が完了しました!!
 では、プレイヤーネーム……――【てんどう たつひこ】様、リアルフィクション・Xの世界を、心ゆくまでお楽しみください。



 ――――【対戦playerを探しています】……
☆――対戦playerが見つかりました――☆


 対戦相手――【かのう むらさきこ】
 playerランク☆☆


 レディー――……?

 リアルフィクション・X、GO!!!!!





 目を覚ます。

 というより、瞼を開く。

 ――――そこは学校の廊下だった。
 見知らぬ……学校の、廊下。

 両側を空き教室に挟まれた、窓の無い、奇妙な造り。

「…………あ?」

 教室の全景を廊下から見通せる透明な窓に触れながら、声を漏らす。

 ――これが、夢の中だという予感がある。
 明晰夢……というのか?

 ただ……触れた窓の冷たさは、現実と一つも変わらない触覚で、あのひんやりとした冷たさを感じていた。現実と変わらない――
 これが夢だという予感……確信を含んだ予感はある。

 恐怖や困惑などは、一つも感じていない。自然と俺はそこに立っていた。

 楽しい夢。
 その予感だけを、感じながら。

 ――と。

 廊下向こうから、人の影が……歩いてきた。

 向かってくるその人影を確認した瞬間、楽しい夢という感慨が消し飛ばされるように失せて、じっとりと汗が滲むような危機感が体を支配した。

 女、だった。

 青色がかった黒髪を、腰まで降ろした、腕の細い女。

 そして女の細腕には、まるでぶら下げるようにして、――仰々ぎょうぎょうしいチェーンソーが握られていた。


「――――……スターターを引くと、伝動装置が起動して……刃が熱を上げて回転し出す……。つまり……それって、実質――冷たい刃と熱い伝動装置の、SEXじゃんッッ!! ――――【801ハチゼロイチ入門書オールマイティサモン起動オン、臓物と刃をセックスさせて物語に更なる混沌の熱を込めよ!!」


 ブゥンッッ!!

 チェーンソーがスターターも使われずに起動して、女がそれを振り上げる。

 これが夢だと分かっているけれど――目の前のチェーンソーには、血も情感も引く確かリアルな恐怖を感じている。
 けれど――感情を滅茶苦茶メチャクチャに搔き乱される恐怖感情を目の前にしながらも、しかし……これが夢だと確信できて、だから。

 確かに、奇妙な形で、ワクワクもする。

 ――もし、「これは夢だな」と確かに分かる、ファンタジックにしてもタチの悪い状況シチュエーションに、不意に見舞われたら……あなたならどうする?

 どうせなら、楽しむ。

 そんな奴らも、大多数、いることだろう――……。

「俺にこんな想像力があったなんてね。ハハ、イカれて、イカした奴すぎるだろ――!」

 現実と同じように喋れることに気付きながら、とりあえず――教室には入らず、俺は女の方向を向いたまま、慎重に後退し始めた。


【チュートリアル・パートです!! 能力を使うには、『エックス』とコールしてください】


 校内放送のような現実的ではなく、空間に満ちて均等に広がるような、非現実的な音響が鳴った。


【なお、対戦playerは実像体リアルプレイヤーです】


 ブゥウンッッ!!

 チェーンソーが、横振りの大振りで襲ってきたが、――狭い廊下でそんなもん振り回せば、避けられたらそれでお終い。細腕なりの扱い上手で、遠心力を使って振ってきたが、――俺の体は糸で引かれたような移動で後ろへ滑り、余裕をもってそれを躱していた。

 そんな凡庸な凶器攻撃、、体が対処法を覚えてるのよ。

 この世界には、あの親もいねぇのかな、なんてことを考えながら、チェーンソーの刃の行方を窺っていたのだが――……それは間違いだった。

 信じがたいことに。
 チェーンソーの歯は、壁にぶつかり制御を失い、やたらめったらに跳ね回って無様を晒すことなく――まるでチェーンソー自体が意識を有しているかのように、慣性の法則も物理的法則も無視して再び俺の腹目掛けて横薙ぎかましてきた。

 間一髪、危うく避ける。……なんとか出血は免れたが、そうか――。

「夢だもんな……。なんでもアリか」

 声漏らすと、女のものすごい目つきと、目が合った。

「オイッ! お前の情熱とのセッション……魂のセックスを魅せろッッ!!」

 頭のおかしい女を笑うと、扉の一つを引っ掴み、教室の一つに転がり込んだ。


【『エックス』の能力は、『毎回ランダム』ですっ! その時引き当てた能力を最大限に使うことを目指し、相手playerを『撃破』しましょう!】

【そして、ゲームの目的である『撃破条件』は――『相手playerの意識喪失』という唯一! それにおいて、撃破方法でプラスポイントが進呈されるといったことはありません、速やかな撃破を狙うことをオススメしますっ】


「扉とチェーンソーの、セックスッッ!!!!」

 マジ〇チな威勢を上げて、女がわざわざチェーンソーで教室への扉を真っ二つにしようとしている。テンション上がってんな。

「――――『エックス』」

 コールすると……再び、辺りから音声が発せられた。


【『逆転目論見ライブラリンク』――相手の能力の詳細を把握して、そのうち一つを自身マイサイドで発現させる】

【【801ハチゼロイチ入門書オールマイティサモン】――『実質的な運命融合SEXだと自己が信仰認識する物体を具現化させる。具現化した物体は、情熱の指針に沿って特別な性能を宿す』】


「最強な能力を引いたのに……、最悪な相性の能力を当てたな……。――――いや、…………」


【『エックス』能力の音声はチュートリアルサウンドと同じく、コールプレイヤーにしか開示されません。能力は開示された【能力名】を口にすることで起動します!】


「なるほど……。――×××××。――っと」

「セックス!! 君を切り裂くようなセックス!!!!」

 ズズン――……、と音を立てて倒れた、斜めに切り取られた扉の向こうで、女が高揚に浮かされた笑みを浮かべていた。

「――……あなた、チュートリアルプレイヤーでしょ? 二度目だけど、やっぱり、動きで分かるもの。さて、――どぉする???」

 まるで夢とは思えない感情の確かリアルさを見せながら、チェーンソーを唸らせる女が、切られた扉を跨いで教室へ入ってくる。

 ――恐怖心よりも、奇妙で、愉快な夢を見られた今を楽しむ心情のほうが、勝っていた。
 それは、比べられないほどに遥かに。――この現状に置かれれば、きっと大方の人間はそうなる。

 夢だから。あらゆることが、無責任じゆうな場所。

「『逆転目論見ライブラリンク』、オン」

 目の前の、イカした女の真似をして、能力発動のコールを声にする。

 ――何も起こらなかった。
 少なくとも――教室内のどこにも、変化は訪れない。

 女は、ニィッと笑った。


「セックス!! 君と僕の、刹那的だが情熱に充ち溢れた、あの日のセックス!!!!」


 詩を唄うように叫びながら、チェーンソーを振り上げて女が迫ってきた。

「あんた、すんげえ喋ってたからな。あんたの抱えるを、俺が理解するにはやすかったよ。しくも、あんたの【X】能力は“情念”を主題とした能力だったしな」

 言って――右手の内に隠し持っていた、一本の鉛筆を、彼女へ示した。


 女の足が、ビタリと止まった。


 悠々と踏みしめていた、慢心尊大の足取りが。

「――あんたは、そう、情念の発露的に見える現象全般を『セックス』と表現しているわけだ。例えばそれで小説でも書けそうな情念の吐露……それを概念も含めて物質的に具現化するのが、あんたの【X】能力の正体」

 夢の中で、これだけ理性的に物事を考えられていることに、驚いている自分に気付きながら……今度はこちらが愉快にかまけるように、浮かされたお喋りを続けた。

「こういうことじゃないか? 例えば――」

『高度Hの鉛筆』を掲げながら、言う。

「『俺の芯を削って他人にも分かるように刻み付ける、真実的なセックス』――とかな」

 足を、と止めた、彼女の足元には――――。
 削るように刻みながらも硬度差ゆえに薄く炭の擦られた――床に書かれた、『動くな』という文字がある。
 彼女はそれを右足で踏んでいた。

「他人にも分かるようにお前に刻み付ける、床と鉛筆のSEX。いや……鉛筆と床のSEX? どうにも……まだ、理解しきれてないな……。――【X】能力が不発だと思っただろうが、事前に発動してたのよ。あんたチェーンソーといい扉の切断といい、騒音立てすぎなのよ、完全に油断しきってただろ」
「…………」
「俺の【X】能力は『相手の能力の詳細を把握して、そのうち一つを自身で発現させる』という性能だったわけだが――能力の内容ゆえに、二度目のコールにおける不発は必然だったのさ。二度、能力名をコールしちゃいけないなんてルールはなかったからな、あんたと向かい合ってのアレはブラフだよ。――さて」

 彼女からチェーンソーを取り上げて、持ち手の部分から振りかぶる。

 取手部分でゴチンとやられた彼女は、目を回してドサリと倒れ込んだ。

「――――対チュートリアルプレイヤーの……イージーウィンだと、思ったのに……」

 倒れ際、そんな声を漏らしながら彼女は気を失って。

 そして、ファンファーレ的なBGMが、またハイエンドの空間音響みたいにして鳴り響き始めた。





 ☆☆おめでとう――――!!☆☆
 player、【てんどう たつひこ】様の勝利!!


 そうして、倒れ伏した女の姿が――スゥ……と、そらに溶けるようにして、消えた。


 おめでとうございます、【てんどう たつひこ】様!

 あなたが勝利者です!!

 さて、では【勝利報酬ウィナーズサプライ】である選択肢を確認してください。


①対戦相手との対談
②次回対戦で相手プロフィールを表示
③直前対戦した相手の【X】能力を開示
④ゲームサイドへの直接質問。(音声100字以下)
⓪なにも選ばない

▽この内から一つを選択。


「――①、対戦相手との対談」

 声にして解答した瞬間、視界が薄れ始めた――……。





 気付けば、窓から夕暮れの茜が射す教室に立っていた。

 そこまで気にかける余裕はなかったが、先ほどの教室から窓を覗いて見えた景色は昼間のそれであったはずだが、今は哀愁の滲む夕暮れのグラウンドが見下ろせる。

 窓辺に、あの女が机に腰かけて、いた。

「……あなた、本当にチュートリアルプレイヤーだったの? 最初に『対戦相手との対談』を選ぶ人なんて、まずいないのに」
「聞きたいことがある。一つ目は【X】能力の開示内容について。随分と内容が曖昧というか、ように思えたけれど、それはつまり、どんな意味を示すことなのかを、教えてほしい」
「――……信じられない。夢うつつ――そのもの夢であるとしか、今は、思ってないはずなのに……。。あなた、どんな人生を送ってきたの……?」
「…………」

 女はため息をついて、濃い茜に染まった窓外の景色へ視線を向けた。

「その様子だと、分かってることもあるんじゃないの?」
「まあ、おそらく……【X】能力はランダムだとアナウンスされてはいたが、ある程度は、その当人の性質に沿った能力が付与される、のだと思う」
「そう。そして、その性質に沿ってプレイヤーに解釈されることで、『X|エックス』能力の内容は初めて決定づけられるのよ。まあ、やってみれば分かるけど……それを悪用するようなことは、本当に難しいのだけれど」
「なるほど……。それから……プレイヤーとの対戦に勝利すると、他に何が起こる?」
「それはシステムメッセージに教えてもらいなさい。……で、他には?」
「対戦で死亡すると何が起こる?」
「場合によっては精神崩壊が引き起こされる、らしい。そうでなくとも、極度のトラウマが刻まれることには、なるみたいね」

 女が答えたところで、窓から見える外の景色が、茜から――藍色ではなく、朝日の白の光に包まれ始めた。

「時間ね、はぁ、本当に残念……。じゃあ――もう会うことはないでしょうね。それじゃ、さよなら――」

 眩くなる光に射されて、視界が、白日の光に包まれてゆく――。


 消える視界の中、ラベンダーにどこか似た落ち着いた香りが、ふわりと薫った。




 
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